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【ゴルフギア取材の裏コラム】クラバーのピンっ!ときた話

【第6回】受け継がれる、カーステンの遺伝子。

PING60周年 ゴルフに"やさしさ"革命をもたらした"カーステン・イズム"に再注目!

2019年11月。PGA OF AMERICAはPING社の創始者である、カーステン・ソルハイムのゴルフ殿堂入りを発表しました。今年はカーステンがカリフォルニア州レッドウッドシティでオリジナルパターを作り始めてちょうど60周年にあたる節目。その年の瀬に殿堂入りを発表するなんて、米国プロゴルフ協会も実に粋な計らいをするなぁと、妙に感心してしまいました。

そもそも、カーステンがオリジナルパター作りに没頭するようになったのは、自らのパッティングをもっと効率良く、道具を替えるだけで改善できるのではないか、と考えたからでした。1950年代のパターといえば、ブレードタイプのL字やT字のパターしかなく、カーステンはそれよりももっと"やさしい"パターは作れるはず、と考えたのです。当時、ゼネラル・エレクトロニック社でボータブルテレビアンテナなど画期的な製品を生み出し続けていた敏腕エンジニアらしい発想。俺なら、もっといいパターが作れる!という確信があったのでしょう。

では、カーステンは何をもって"やさしい"と考えたのでしょうか。誰が打っても芯に当たるやさしさでしょうか? それとも、多少ミスしたとしてもボールが芯で打った時のように飛んでくれる。そういう状態を"やさしさ"だと捉えていたのでしょうか? 私は、後者だと思っています。

カーステンは、ゴルフが大好きなアマチュアゴルファーであり、ミスパット、ミスショットの原因が自分の技量の足りないところにあることをよくわかっていました。ゴルフにミスは付き物であり、技量の向上には大変な時間、そして努力が必要になることを痛感していたのです。その上で、多少ミスしてもある程度キチンとボールが転がってくれる。そんな"ミスにやさしい"パターを作ろうと決心したのです。

カーステンの考案した"ヒール・トゥ・バランス"。それはアイアンの"キャビティ化"、ドライバーの"高慣性モーメント化"と同じ。

カーステンが最初に完成させたパターは、『1A』という中央部が空洞で周囲をブロンズの衝立で囲んだようなボックス型のヘッドでした。薄い板がインパクトの振動で共鳴し、ピーンという打球音を発したことから"PING"というブランド名が生まれたことはあまりにも有名な話です。つい話が脱線してしまいますが、今日の本題はそこではありません。この薄い板で囲まれたボックス型ヘッドの"狙い"について、この機会にもう一度よく考えてみたいのです。

写真を見てお分かりのとおり、『1A』は中央が空洞になった箸箱のようなデザインになっています。当時主流のL字やT字のボディには空洞はありません。鉄や真鍮といった金属の塊でヘッドが出来ていたのです。

ヘッドの中央部が空洞で前後左右に重量を分散させた「1A」のヘッドデザイン。

カーステン・ソルハイムが自宅ガレージで作成した「1A」の最初期ヘッド。
REDWOOD CITY,CARIF.と所在地の刻印がある。

カーステンが採用した空洞のあるブロンズヘッドは、ヘッド重量こそL字やT字と変わりませんが、重さの配分が決定的に違っていました。金属の部分が"重たい"と思って、もう一度、『1A』を見てください。中央が軽く、その周囲と下部(ソール)が重たくなっていることがわかっていただけたのではないかと思います。

ヘッドのセンター(重心)から重さをなるべく周囲に遠ざけることで、慣性モーメントは飛躍的に大きくなります。そうすることにより多少インパクトで打点がズレてしまっても、フェースの向きが変わりにくく、打球のブレを軽減することができるのです。その上で、現在の最新クラブを見ていただきたいと思います。

まず、アイアンですが多くのモデルがフェースを薄く(軽く)、外周をフレームのように厚く(重たく)デザインしています。いわゆるキャビティバックという構造です。ドライバーヘッドも460ccまで大型化し、『1A』と同じように真ん中を軽く、周囲を重たくすることで、多少ミスしてもキチンとボールを飛ばせるようにしています。

この連載の第一回目で、現在最新のG410ドライバーの"やさしさ"、PINGが追い求める上下左右の高慣性モーメント化について取り上げていますが、これはPINGのエンジニアたちがカーステンとまったく同じように、道具のチカラで"俺たちはまだまだゴルフをやさしくできる"、そう思って日夜開発に没頭していることの証明です。PINGが創設されて60年。カーステンが亡くなって約20年が経とうとしていますが、アリゾナ州フェニックスでは今でも、もっともっと"やさしいゴルフクラブ"を生み出すための研究・開発が進められているのです。

私はカーステンにインタビューしたことは一回だけしかないのですが、その中で最も記憶に残った言葉を最後に書いておきたいと思います。

「確かに(PINGの)古いパターの人気もあるかもしれないですが、新しいモデルはもっと良くなっていますよ。そのために私たちは開発を続けているのです。どうぞ、新しいクラブに期待してください。そのことを日本のゴルファーの皆さんに伝えてください」(カーステン・ソルハイム)

2019年。PING創設60周年、そしてカーステン・ソルハイム氏のゴルフ殿堂入りをお祝い申し上げます。

カーステン・ソルハイムと「1A」。
ミスにやさしい革新的なパターの誕生を伝える当時の新聞記事。

クラバー

高梨 祥明Yoshiaki Takanashi

ゴルフ専門誌のギア担当として、長く国内外のゴルフメーカーの開発中枢を取材。2013年に独立しフリーライター/編集者として活躍中。愛称のCLUBERは、GOLF CLUB LOVERを縮めた造語。

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