「あ、PINGの場合は通常のMOI左右(トゥ-ヒール方向)に加え、上下(ソール-クラウン方向)のMOIも重要視しているのです。上下左右のMOIを足した値が9000g/㎠以上になるようにしているのです」
実際の打点は左右だけでなく、上下にもバラついてしまう。だからドライバーの開発では、あらゆる方向の打点ズレに対してやさしさを発揮するようにしておかなければならない、と担当さんはいうのだ。
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
最近、すべてのゴルフクラブメーカーが"飛び"と"スピード"に力をいれているようにみえる。ちょっと前までは、"飛び"は日本メーカーの専売特許で、米国メーカーは「FORGIVENESS(寛容性)」を一番に考えていたように思うが……。
そう思う根拠をまずは簡単に記しておきたい。
それこそ15年くらい前になるが、私は雑誌編集者時代、米国の練習場に行ってドライバーショットの悩み・望みについて飛び込みでアンケート取材したことがある。回答項目は①飛距離アップ ②方向性アップ ③その他 から1つだけ選ぶというシンプルなものだった。

当時、日本でしか販売されていなかった"高反発ドライバー"を10モデルくらい携えて米国に乗り込んだわけだが、いくら飛ぶから打ってくれ!と頼んでも、「シャフトがブニャブニャで打ちにくい」とか、「音がキンキンうるさい」とか、「軽すぎる」とか、「800ドル!?冗談でしょ?」と、とにかく日本の飛びドライバーは評価が低かった。そんなことより、「曲がらないドライバーはどれなんだ!」と。もともと日本人よりもパワーがあって、飛ぶけど曲がるのが悩み!というゴルファーが多い。それが当時出した結論だった。だからこそ、米国メーカーは商品特徴の一番最初に「FORGIVENESS(寛容性)」と記すのだと妙に納得したのである。
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それから15年、米国もすっかり"スピード狂"になってしまったのかしら? ミスに対する寛容性こそ命だったのではないの? 真相をピンゴルフジャパンの開発・企画担当者に聞いてみた。
「もちろん、今でもPINGはやさしさ第一主義ですよ。最新作G410のキャッチフレーズも、ブレない飛びです。振りやすさ、スピードを追求しつつ、慣性モーメント(以降MOI)9000g/㎠超えで、前作を超えるパフォーマンスという開発目標をしっかり達成しているのです」
MOI9000g/㎠ ?
ゴルフのルールでは、MOIの上限は5900g/㎠(+誤差100g/㎠以内)と決められているはずだが、9000とはこれいかに!?
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「上下左右の慣性モーメントを大きくしていくと、打点がどの方向にズレてもヘッドがブレにくく、曲がらずに効率よくボールを打ち出すことができる。結局、それがボールスピードのアップ(飛距離アップ)にもつながる。だから、G410でも飛びアピールをしているわけですが……。とにかくPINGはずっとやさしさ第一主義。そこは創業以来ブレていません」
もしかして、うまいこと言われちゃった?
確かにPINGの創業者カーステン・ソルハイムは、パットのミスを救うために"ヒール-トゥバランス"を取り入れたが、これは今風にいえば、MOI左右の拡大を狙ったものだ。
ヘッドがどんどん大型化し、どんどん高くティアップするようになった現在のドライバーともなれば、左右に加えて上下のやさしさアップも必要になるのは当然である。そういう意味ではPINGの左右+上下のMOIアピールはシンプルに理解できる。
やさしいドライバーの極意は、フェースの"全方位"に対して高慣性モーメントであること。それが飛びの極意ともなる。
これが今回のピンっ!ときた話である。
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クラバー
高梨 祥明Yoshiaki Takanashi
ゴルフ専門誌のギア担当として、長く国内外のゴルフメーカーの開発中枢を取材。2013年に独立しフリーライター/編集者として活躍中。愛称のCLUBERは、GOLF CLUB LOVERを縮めた造語。