2019年には年間7勝を挙げて2度目の賞金女王に輝くなど、国内女子ツアーにおいてトップクラスの実績を持つ鈴木愛選手。コロナ禍では一時不調に苦しんだものの、2023年は3年ぶりの優勝を果たし、メルセデス・ランキングもトップ10(9位)に返り咲きました。完全復活への期待も高まる鈴木選手に、ここ数年取り組んでいるスイング改造や長年愛用するピンのクラブのことなどを語ってもらいました。
――ピンのファンの印象は?
鈴木:ピンが大好きな方って、クラブについて詳しくて、ピンと決めたら、絶対にピンを使うみたいなこだわりが強い印象があります。
「愛ちゃんのシャフトは、何グラムでどんな硬さなの?」と聞かれることもあるのですが、私はレップの方にお任せしていて何もわからないので、「えっ、自分のクラブなのに知らないの?」と驚かれることもあります(笑)。
――2023年シーズンはどんな一年でしたか?
鈴木:久しぶりに一年間楽しくプレーできましたし、自分に余裕を持つことができたシーズンだったと思います。
コロナ禍になってから、ショットがすごく悪くなったり、アプローチが思うようにいかなかったり、パッティングも好不調の振り幅が結構あったりして、自分の思い描いているプレーができなかったんですけど、本当に久しぶりに全体のバランスが取れたシーズンだったと思うし、何よりもスイングがめちゃくちゃ良くなりました。理想よりもはるかに良いスイングになっています。
――ここ3年くらいはスイングを変えることに取り組まれていました。
鈴木:以前は左右にスウェーしながら打つスイングだったんです。軌道も結構バラバラだったんですけど、今は、めっちゃシンプルになりました。
左右に動くのもなくなったし、スイングの軌道がシンプルになったので、同じスイングを何回でもしやすくなって、良いショットが打てる精度が高くなりました。
スイングが違うと、こんなにもショットが変わるのかっていうぐらい雰囲気が違います。
――2019年に年間7勝をあげましたが、当時のスイングと比較すると?
鈴木:今のスイングのほうが全然良いですね。その時にはその時の良さがもちろんあるんですけど。でも、誰が見ても今のほうがいいスイングだと思うし、何回も何回も再現性を出すという意味では自分でも絶対今のほうが良いと感じています。
良いバランス、良いイメージを3日間ないし4日間続けるとなると、以前までのスイングでは厳しかったと思うのですが、今はそれができる回数も増えたと思うし、賞金女王になった2019年と比較しても、本当に別物と言えるくらいに良くなりました。
――スイング改造は苦労されましたか? 大きな変更をするのはトッププロでも大変なのでは?
鈴木:大変でした。20年と21年はいろいろなことを取り入れながら、まず左右にスウェーしないようにやっていたのですが、今までずっと動くスイングだったので、とにかく窮屈で逆に曲がってしまうようになりました。
結果的に、この“動かさないように”という意識をなくしてみたら、逆にスウェイが減ってきました。細かい意識の差ではあるのですが、ちょっとしたことでまったく違う動きになったりします。今はコーチもいないので、自分で考えながら取り組んでいます。
現在のスイングは、自分でも完成度がとても高いと感じています。最終戦の「JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ」は、特にショットの精度が悪いと上位にいけない試合なのですが、フェアウェイキープ率もパーオン率もここ数年で一番高くて、仮にグリーンに乗らなくても左右のブレが少なく、会場の宮崎カントリークラブがいつもよりやさしく感じられました。スイングが良くなると、こんなに楽なんだなと。
――2023年シーズンで印象に残っている試合はありますか?
鈴木:意外と印象に残っているのは「ゴルフ5レディス」です。
優勝争いをしていて、最終日の前半が終わった時点で1打か2打リードしていたのですが、そこから失速してしまった。ボギーをポンポンって簡単に打って優勝できなかったっていうのがあまり経験としてなかったので、めっちゃ悔しくて。優勝できなかったことよりも、自分が簡単に崩れてしまったことが悔しくて仕方なかったです。
帰りの飛行機でもすごく眠いのに、でもモヤモヤして、目はつむるのですが負けた残像が浮かび上がってきて眠れませんでした。その眠れなかったのが、一年間で一番印象に残っています。
――そういったときなどにリフレッシュする方法はありますか?
鈴木:いろいろなリフレッシュ方法を考えたこともあるし、いろいろ試したりもしたのですが、結局ゴルフのことはゴルフで完結しないと気持ち良くないので。ゴルフでいい結果が出るように、たくさん練習します。
食事についてもよく聞かれるのですが、得意料理とかもなくて、自分が作りたいものを作っています。うどんが多いかな。うどんがめっちゃ好きなんで、2日に1日は絶対に食べています。
ツアーを転戦していると、自分が食べたい感じのうどんがないときもあるので、よく冷凍の讃岐うどんを買って食べています。ちょっとコシがあって、最近は冷凍のほうがおいしいかな。
――鈴木選手は一貫してピンのクラブを使用していて、新しいクラブにもすぐにスイッチして成績に結び付けています。ピンのクラブの印象は?
鈴木:もちろん、とても気に入っていて、今は特に『G430』のドライバーとフェアウェイウッド、それにハイブリッドが良いですね。
ちなみに、自分の中ではドライバーとハイブリッドはどちらかと言うとすぐにチェンジできるのですが、フェアウェイウッドが割と難関なんです……。フェアウェイは距離も出したいのですが、高さも欲しいし、スピン量もやっぱり少しは欲しいんです。セカンドでグリーンを狙うこともあるので。距離も高さも出て、自分の思っているスピン量になるクラブと、理想とするショットを一致させる作業が結構難しいです。それに、スプーン(3W)が14本の中で1番か2番目に苦手なので。
――トッププロでも苦手なクラブがあるんですね。
鈴木:スプーンと6番アイアンがあまり得意ではなくて。この2本ともキャリーも出したいし、高さとスピン量もそこそこ欲しいという、そんな感じでイメージがハマるものが理想です。低スピンでランが出過ぎて止まらないクラブはなかなか使えません。
『G430』のスプーンはその点、ピタッとハマりました。
ドライバー、フェアウェイウッド、ハイブリッドと全部上手くハマってくれたので、『G430』が、今までで一番好きなシリーズかもしれないです。
――鈴木選手といえば、ツアーでも1、2を争うパットの名手です。ピンのファンの方にパッティングのアドバイスをお願いします。
鈴木:うーん……。(少し悩んでから) 多くの方が手打ちになっていると思うのですが、手を使わないのが一番大事なんです。私がやっているのは、いつもクラブを両脇に挟んで打つ練習です。手を使えないのとグリップしたときにできる三角形が崩れにくいので、身体を使って打ちやすいし、それによって距離感も合いやすくなります。
――一時は大型マレットの『ECHO』を使って好成績を挙げられましたが、2023年シーズンはアンサー型を多く使用されていました。
鈴木:基本的には自分のストロークにはアンサータイプが一番合うと思っているので、実はマレットを使うときっていうのは、正直あまり感覚が良くないときが多いんです。
調子が良いときは、アンサータイプを使っているほうが構えた際に入りそうだと感じますし、ストロークのしやすさもあって、間違いなくアンサータイプが自分にハマっていると思っています。
ただ、調子によってマレット型を使ったりとか、センターシャフトのマレット型にしたりと、いろいろなパターに変更することもあります。ピンのパターはラインアップも豊富なので、その時々で最適だと思えるタイプが選択できています。
――最後に2024年シーズンの目標を教えてください。
鈴木:細かい目標はまだ自分の中で決まってはいないのですが、大きな目標で言うと、今季が終わった段階で、生涯獲得賞金9億円まであと50万円くらいだったんです(※2023年シーズン終了時点で、生涯獲得賞金899,478,924円)。
それを達成できずに今年終わってしまったのが、めっちゃ悔いが残っていて。それがなんだか気持ち悪くて、来年終わるときには10億円を超えて終わりたいなって。
あとは、シーズン3勝したいと思っていて、そのうちの一つでもメジャー大会だったら最高だなって。それが目標ですね。
ー了ー