2004年に誕生したピンの『Gシリーズ』。初代の『G2』から20年間にわたり一貫して高慣性モーメント・深低重心設計にこだわり、やさしくブレない飛びを追求してきました。 弾道がブレないだけではなく、開発方針もずっとブレていません。
しかし、2025年モデルの『G440』はドライバーの新境地に挑戦。ピンはブレてしまったのでしょうか?
今回はピンゴルフジャパン ハードグッズプロダクト担当の山崎力さんにその真意を聞いてみました。
これまで高MOI、深低重心を追求してきたGシリーズ。
G440はPINGが理想とする重心ラインに過去最も近づくことに成功し、
インパクト時のボールへのエネルギー伝達効率と飛距離性能が高まった。
それが、高MOIをキープしつつ、PING史上最も低重心化した「飛び重心」設計。
ーーピンには創業以来、『前作を超えなければ新製品は発売しない』という開発哲学があります。『Gシリーズ』においては寛容性を求め、重心を深く・低くすることを追求してきました。その結果、上下左右の慣性モーメントは8,000 g・㎠、9,000 g・㎠を超えて、2024年発売の『G430 MAX 10K』ではついに10,000(10K)g・㎠を突破しました。慣性モーメントの数値が高いほど、インパクト時にヘッドが安定し、ミスヒットにも強くなります。今までのピンであれば、前作を超える深低重心化、高慣性モーメント化を進めていたはずですが、今回は何が変わったのでしょうか?
山崎:もちろん「前作を越えなければ新製品は発売しない」という哲学はブレていません。ピンの製品開発においてはプロや上級者だけではなく、すべてのゴルファーにベストな結果を出すためのクラブ開発が基盤となります。また、ゴルフのレベルを問わずに最適なクラブを選ぶことができるピンフィッティングも開発の中では非常に大事な要素となります。今作が「飛び重心」をメッセージとしているのには『G430 MAX 10K』の開発が大きく影響しています。詳しく説明すると、『G440』の3つのヘッドは寛容性の高さをキープしつつ、飛距離性能を伸ばすための次のステージへの開発へ進みました。深低重心化と慣性モーメントにおいては『G430 MAX 10K』が一つの分岐点であり、重心を深くする高慣性モーメントの開発においては『G430 MAX 10K』で現時点での到達点に近づいたと思っています。では「どうやって前作を超えるのか?」となったときに今回は高MOIはキープしながらも重心を低くすることに特化することで「ブレない」は変わらずそのまま継承し、「飛距離性能の向上」を開発の軸としたのです。なので今作は「飛び重心」をメッセージとして多くのゴルファーに『G440』の進化したテクノロジーを体感していただきたいと思っています。
ーーでは、どのように飛距離性能を伸ばしたのでしょうか?
山崎:先ほどお伝えしたように、『G440』はPING史上最も低重心の「飛び重心」設計となっています。元来、ピンにはインパクト時にボールへエネルギー伝達効率と飛距離性能が向上する理想的な重心ラインがあると考えています。それはフェース面上の中心から、フェースに対して90度の角度につながった線です(上記参照)。そのライン上にヘッドの重心があれば、最大限のエネルギーをボールにぶつけることができます。重心ラインの発想はゴルフクラブ以外の分野にもありますが、ドライバーの場合はロフトがあるので重心ラインが斜めになることがポイントです。その重心ラインに過去最も近づくことができたのが『G440』です。
ーー重心ラインに対して、歴代の『Gシリーズ』と『G440』の決定的な違いとはなんでしょうか?
山崎:ウッド系のクラブは大きいヘッドを振りやすくするためにヘッド内部を空洞にしているため、重心の高さは高くなりやすく、またフェースの面側の方がヘッドの後方よりも質量が大きいため重心深度も浅くなります。構造的には重心を深く低くすることは非常に難しいことなのですが、 歴代のGシリーズは重心を深い位置まで配置することができ、高MOIを実現してきました。今回のG440は今までの『Gシリーズ』の代名詞でもある高MOIはキープしながら、重心を低い位置に配置することができ、ピンが理想とする重心ラインに過去最も近づいたことが、飛距離性能を大きく向上させたポイントになります。
インパクトの瞬間に、フェースとボールが適正ロフトのまま正面衝突できるようになったイメージです。余計なギア効果が生まれないので、効率良くボールにエネルギーを伝達することができます。
ーーどうやってヘッドの重心を下げたのでしょうか?
山崎:ヘッド内部の重心を下げるのは簡単なことではありません。今回は3つのテクノロジーを採用しました。
まずはカーボンフライ・ラップ・テクノロジーです。前作では『LST』にのみ採用していたカーボンクラウンを、『MAX』と『SFT』にも採用しています。しかも、前作のLSTのカーボンクラウンには耐久性を向上させるために2本のブリッジがありましたが、インパクト時のストレスや負荷がどこに集中しているのかを研究し、分散させることができたため、ブリッジを除去することに成功しました。そのため、全モデル、クラウン部分が前作よりも軽くなり、MAXとSFTは結果的に約34%も軽量化しています(前作比/当社調べ)
2つめはホーゼル部分です。『G440』ではフリーホーゼルデザインによってヘッド内部のホーゼルを包む部分をカットしています。前作と比べて約13%も軽量化。市場にあるクラブの調整式ホーゼルと比べても、かなり軽くなっていると思います(前作比/当社調べ)。
3つめはフェースです。フェースは前作に比べて中央部を約4%、周辺部を約7%薄く軽くしたことによってフェース重量を約7%軽くすることに成功しました。薄くすることによってたわみやすくもなり、高初速にも繋がっています(前作比/当社調べ)。
3つのテクノロジーで軽量化したことによって余剰重量が生まれ、その分だけソール後方部のウェイトを重くすることができました。ウェイト部分の重量はヘッド全体の約15%を占めています。その重さがソール後方にあることで、深い重心位置を実現しながら、ピン史上最も低重心化できたのです(当社調べ)。
ーーちなみにピンの特徴でもあった「ブレない飛び」。曲がりにくい魅力はどうなったのでしょうか?
山崎:もちろんブレないヘッドは継承しています。慣性モーメントで言えば10,000g・㎠(10K)には到達していませんが、『G440 MAX』『G440 SFT』『G440 LST』は非常に高いMOIとなっています。
最も慣性モーメントが大きい『G440 MAX』は上下左右の合計値が10,000g・㎠に近い値まで迫っています。SFTとLSTは約9,000g・㎠あり、『G440 LST』は歴代の『LSTシリーズ』で最大の慣性モーメントを達成しました。飛距離性能が大きく向上している『G440』ですが、ブレない高MOIもキープしているのです。
ーー3モデルの形状はどのように変わりましたか?
山崎:ピンの開発プロセスのなかで、非常に大事しているのがプレイヤーテストです。マシンテストを活用して、企画した数値の理論値などももちろん研究はしていますが、何よりも大事なのは実際にゴルファーが打って、どのような結果が出るかという点です。
前作からブレない安定性に、飛距離性能を向上させた『G440』ですが、それはMOIの数字や重心位置の変更だけで実現できたわけではありません。様々な要素が複合的に重なり合って前作を超えるパフォーマンスを実現しています。
その中で、ヘッドの形状もパフォーマンスに影響を与える要素のひとつです。
プレイヤーテストの研究の中で、Pre Impact(プレインパクト ※構えた状態からテイクバックをしてインパクトするまで)時のプレイヤーの感性、ヘッドやシャフトの挙動の研究をするなかで、ヘッドの投影面積がプレイヤーの構えやすさや、打ちやすさなど実際のパフォーマンスに影響を及ぼすことが分かっています。ヘッドが大きく見えると安心感があって構えやすいゴルファーもいれば、小さく見える方が操作性が高くなり、構えやすいゴルファーもいます。そのために今回はヘッドの投影面積を前作から少し変更しています。『G440 MAX』はヘッド体積は460㎤のままですが、投影面積が少し小さくなってスマートな顔に仕上げています。『G430 MAX 10K』の大きめな投影面積と対照的に小ぶりなヘッド形状となっているので、小ぶりなヘッドが好き。かつ、高MOIのブレないヘッドを求めている方にはとても恩恵のあるヘッドだと思います。『G440 SFT』もヘッド体積は460㎤ですが、投影面積はやや大きくしてさらに安心感がある形状になっています。『G440 LST』は前作の『LST』よりも打感と打音を向上するために、ヘッド体積が10㎤大きくなって450㎤になりましたが、構えた印象はわずかに小さく見える投影面積になっているので構えた時にシャープで操作しやすい印象になっています。
ーー『G440シリーズ』のドライバーは『ALTA J CB BLUE』のシャフトのみ46インチになりました。今までは45.75インチでしたが、なぜ『G440』で46インチになったのでしょうか?
ドライバーを+1インチ長くした際の影響 | |
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ボールの初速 | +0.45m/s |
打ち出し角 | +0.6° |
スピン量 | +120rpm |
クラブスピード | +0.67m/s |
キャリー | +4yard |
曲がり幅 | +1.25yard左 |
バラつき | +10% |
山崎:トッププロからアマチュアまでの何万球ものドライバーデータを集計していますが、『ALTAシリーズ』を使っているヘッドスピードのゴルファーだと46インチの方がメリットが大きいことがわかりました。ここ数年、ずっと『ALTA シリーズ』は45.75インチにしていましたが、G440シリーズの高MOIヘッドの場合、長さを伸ばした46インチにすることで曲がり幅こそ約1〜2%広がってしまいますが、飛距離は約3〜4%も伸びることがわかりました。少し曲がっても、飛距離が伸びていた方がスコアアップにつながる可能性が高いとピンは考えています。
実は過去にゴルフ界には長尺ブームがありました。当時はピンも46インチのシャフトにしたドライバーを発売したのですが、すぐ長尺ブームは終わってしまいました。その要因は「ミスヒットしたときに飛ばない」「曲がり幅が大きい」というのが大きかったと思います。2025年になり、『G440』でもう1度46インチを採用した理由は25年前と比較したときにヘッドの慣性モーメントが大幅に上がったからです。ピンではシャフトの研究でもプレイヤーテストの結果を重視しています。シャフト長を長くした場合にはヘッドスピードが向上し、初速や弾道が高くなります。また打点のバラつきに関しても約10%上がるデータはありますが、最新のヘッドであれば高慣性モーメントのヘッドなので「ミスヒットしたときに飛ばない」「曲がり幅が大きい」という要因をクリアできます。
ただ、あくまで標準長であって、フィッティングの中で最適な長さに0.25インチ刻みでカスタムすることもちろん可能ですので、ゴルファーの要望に合わせてご指定いただくのがいいと思っています。
ーー『G430』で好評だった打音はどのように変わったのでしょうか?
山崎:打感と打音というのもゴルファーがクラブ選択をする中で、非常に重要な要素であると理解しています。日本のゴルファーは他国のプレイヤーに比べて特にこだわりがあることもピンは認識しています。
そんな日本のゴルファーからの声もあり、前作は『快音』というキャッチフレーズをつけ、心地よい打感と打音に進化したことをすごく評価していただきました。『G440』ではさらにサウンドリブの改良とヘッドの形状による変化で前作よりも、さらに日本のゴルファーが好む打感と打音に進化しています。詳しくお伝えすると、リブを長くしつつ、配置を変更したこと、クラウンとソールにやや丸み持たせることによって、振動を抑えました。その結果、前作よりも短くて、低い音になりました。ゴルファーが感じる印象としては残響音が少ない、爽快な音に仕上げています。
ーーそしてもう一つ変わったのはイメージカラーをブルーにしたことですよね。このブルーには何か意味があるのでしょうか。
山崎:実は初代のGシリーズ以来『G2』がブルー、10年前の『G30』『G』がブルー、そして今回の『G440』もブルー。ピンはGシリーズの節目となる時にブルーを多く採用してきています。『G440』のブルーはタイムレスブルー(TIMELESS BLUE)という名前を新たに付け、特定の時代に限定されたり、流行に左右されたりすることなく、輝き続けるモデルであり続けるというピンからのメッセージとして伝えていきたいと思っています。
ピンは2004年の『G2』の時代から「前作を超えなければ新製品は発売しない」という開発思想からブレることなく開発し続けてきました。そもそも『Gシリーズ』のGは時代を意味するジェネレーション(Generation)の意味であり、初代なのに『G2』と名付けたのはネクスト(次世代)のクラブを開発しようというテーマでした。
その結果、たどりついたのがブレないピンから、ブレずに飛ばすというピンの華麗なる変貌です。2025年、タイムレスブルーの『G440』が新時代のはじまりを告げます。
ーー「G440」はGシリーズで追い求めてきた深低重心、高MOIを継承しながらも「飛び重心」へと進化を遂げたことで、Gシリーズにおいて20年間の中で大きなターニングポイントとなることは間違いないでしょう。
新時代のはじまりを告げる「G440」。その進化を皆さんもぜひ体感してみてください。
ピンゴルフジャパン
プロダクトマーケティング
ハードグッズ担当山崎 力